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東京地方裁判所 昭和39年(ワ)10657号 判決 1969年6月16日

原告 杉本健

右訴訟代理人弁護士 菅野次郎

被告 塩山水産株式会社

右訴訟代理人弁護士 山口鉄四郎

主文

被告は原告に対し金一、五四〇、二〇〇円および、これに対する昭和四〇年七月一日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実

<全部省略>

理由

一、原告が昭和三八年六月一七日被告会社の取締役に就任したこと、被告会社の定款には、取締役、監査役の報酬は株主総会において定める旨の規定があったところ、昭和三八年六月一七日の株主総会において、右報酬総額の最高限を年間金五〇〇〇万円とする旨の決議があったこと、その頃、被告会社の代表取締役であった塩次鉄雄が原告の報酬を月額九〇、六〇〇円、毎月末日払とすることを掲示し、原告がこれを承諾したことはいずれも当事者間に争がない。

二、ところで、右のように株主総会が取締役等の報酬総額のみを決定して、各取締役に対する支給額を決定せず、または決定すべき者を定めなかった場合、右配分は取締役会において決定することができるが、しかし取締役会の専決事項と解すべきではなく、取締役会がさらに特定の取締役等にこれを一任することもできると解するのが相当である。そして、<証拠>を総合すると、被告会社の実体は前記塩次鉄雄の個人会社ともいうべきものであって、各取締役、監査役の報酬額の決定についても従前から同人に一任されており、昭和三八年六月一七日就任した原告および他の取締役ならびに監査役の報酬額についても、塩次鉄雄が前記報酬総額の範囲内で各人の従前の収入等を勘案して決定したが、当時の取締役全員がこれを了承して何らの異議も述べなかったことが認められ、右事実からすれば、被告会社の取締役会はその頃前記の配分を塩次鉄雄に一任したものと認めるのが相当であって、証人塩次鉄雄の証言中右認定に反する部分は採用することができず、その他これを覆えすに足りる証拠はない。してみると塩次鉄雄が行なった前記報酬額の決定は有効であって、取締役在任中またはその権利義務を有する地位にある限り、一ケ月金九〇、五〇〇円の割合による報酬請求権を有するというべきである。

三、被告会社は、原告が昭和三九年二月一四日取締役を辞任したから、以後右報酬請求権を失ったと抗争するが、証人塩次鉄雄の証言中右主張にそう部分は採用できず、かえって原告本人尋問の結果によれば、被告会社において原告の明確な承諾を得ず辞任届を作成して辞任の登記を経由したにすぎないことが認められるから、被告会社の右抗弁は理由がない。

四、また被告会社は、前記塩次鉄雄が昭和三九年二月頃原告に対し報酬を与えないことに決定してこれを通知したと主張するが、一旦適法に決定した取締役の報酬は、当該取締役の同意がない限り、任期中減額しまたはこれを与えないこととすることは許されないと解すべきところ、本件においては原告が右のような同意をしたことについて何らの主張立証もないから、被告会社の右抗弁も採用することができない。

五、よって、被告会社は原告に対し昭和三九年二月分から昭和四〇年六月分までの報酬合計金一、五四〇、二〇〇円およびこれに対する履行期後である昭和四〇年七月一日以降民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があるから原告の本訴請求を正当として認容する。<以下省略>。

(裁判官 大西勝也)

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